微男微女

日常の考察

桃太郎の親ガチャ

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に出かけました。おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。

 

おばあさんがその桃を家に持ち帰り、半分に割ると、中から元気な男の子が飛び出しました。子どもがいなかったおばあさんは大変喜び、その男の子を「桃太郎」と名付け、大切に育てました。

 

生みの親を知らない桃太郎にとっては、育ててくれたおばあさん、おじいさんこそが親でした。おばあさんはとても優しく接してくれる人でした。一方、おじいさんはとても厳しい人でした。おじいさんは子どもがほしくなかったので、桃から桃太郎が出てきた時、「なんでうちで生まれるんじゃ、まったく」と険しい顔で言ったそうです。桃太郎が歩けるようになってからは、嫌がらせなのか、山に連れて行き、柴刈りを手伝わせました。まだ幼いのに、怠けることを許さず、非常に厳しく接していました。

 

成長した桃太郎は、鬼ヶ島へ鬼退治に行くことになりました。おばあさんが作ったきび団子を腰にぶら下げ、鬼ヶ島へ向かっていると、道中、犬、猿、キジが順に現れ、「きび団子をくれるなら、お供します」と言いました。桃太郎はきび団子をあげ、犬、猿、キジを連れていくことにしました。

 

この犬、猿、キジは、実はおじいさんが山で密かに飼っている動物たちでした。彼らは桃太郎からきび団子を奪うよう、おじいさんから指示を受けていたのです。さらに、「桃太郎の鬼退治には協力するな」という指示も受けていました。きび団子を奪い、協力するフリをしろ、ということです。おじいさんはどれだけ嫌がらせをすれば気が済むのでしょうか。

 

何も知らない桃太郎は、そのまま鬼ヶ島へ向かいます。鬼ヶ島に着くと、鬼が勢いよく襲ってきました。桃太郎は鬼に立ち向かい、次々と倒していきました。犬、猿、キジは予想外に鬼が早く襲ってきたことに驚きました。身を隠す前に襲ってきたので、結果的に桃太郎と一緒に鬼をやっつけることになりました。

 

 

鬼は、あっさりと倒すことができました。勝利をおさめた桃太郎は、鬼にいくつかの質問をしました。そのやりとりの中で、鬼がある事実を告白しました。なんと、おばあさんが鬼と内通していたのです。おばあさんは、鬼ヶ島に「鬼退治」という名目で子どもを送り込み、鬼から報酬を得ていました。それを知っていたおじいさんは、桃太郎がいずれ「鬼退治」に行かされることを想定し、厳しく鍛えていたのでした。

 

鬼は、桃太郎にやられる前までは、人間に連勝していました。それは、おばあさんが送り込む子どもに人間を弱らせる毒を飲ませていたからです。毒入りのきび団子を食べさせるのは、おばあさんの常套手段でした。おじいさんが犬、猿、キジにきび団子を奪わせたのは、きび団子が毒入りだと知っていたからです。毒さえ飲まなければ、人間は鬼より強いのです。

 

おじいさんは、犬、猿、キジの協力がなくても桃太郎は鬼を倒せるだろうと思っていました。だから、協力はしないで陰でこっそり見守り、勝利を見届けたらそのまま帰ってくるよう指示していたのでした。協力してしまうと、優しい桃太郎は鬼の宝を犬、猿、キジにも分けてくれるだろうと思ったからです。鬼の宝は桃太郎が全部持っていき、村から離れた場所で豊かに暮らしてほしい。それが、おじいさんの願いでした。

 

傍から見ると、おばあさんは桃太郎を大切に思っていて、おじいさんは桃太郎を疎ましく思っているように感じられました。でも、実際は違いました。ただ、鬼から事実を聞かされた後も、桃太郎はおばあさんを恨むことはしませんでした。「今幸せだから、過去のことはいいんだ」と桃太郎は満足そうな顔で言います。そして、おじいさんには宝石を渡して親孝行しました。

 

めでたし、めでたし。

 

 

『桃太郎』の絵本を読み終えると、小学1年生の妹は言いました。

 

「桃太郎はいいなぁ。鬼退治に行く前まではおばあさんのおかげで幸せに過ごせて、鬼退治では、おじいさんのおかげで鬼に勝利して宝石を手に入れることができて。親ガチャ大成功だね」と。

 

妹の発言を聞いた小学6年生の私はこう言いました。

 

「桃太郎はおばあさんに鬼の餌食として育てられ、おじいさんからは、桃太郎を思ってのこととはいえ、何も知らされず幼少期から山で厳しく働かされていたんだよ? 親ガチャ失敗じゃない?」

 

それを聞いた父親が「2人とも、真実を知らないんだな」とボソッと言いました。「どういうこと?」と私が聞くと、父親は「桃太郎は、全てを知っていたのさ」と語り始めました。

 

「2人とも、絵本の内容を鵜呑みにしただろう? でも、絵本にかかれていることが全てではない。これから桃太郎の真実を伝えよう。

 

桃太郎は洞察力に優れた人間だった。だから、おばあさんが鬼と内通していることも、おじいさんが自分を助けようとしていることも、幼い頃からちゃんとわかっていた。ただ知らないフリをしていた方が都合が良いと判断して黙っていただけだ。桃太郎はおじいさんとおばあさんを利用できるだけ利用しようと思っていた。そういう、ある種の『賢さ』があった。利用するというと、中には『冷たい人間』だと思う人もいるだろうが、最終的には幸せを手に入れ、親孝行までしている。

 

これがどういうことかわかるか? つまり、桃太郎にとって親ガチャは当たりでもハズレでもないってことさ。桃太郎はどんなガチャでも“当てにいく”と決めて生きていた。それが桃太郎の本当の物語だ。いいか、2人とも、親ガチャは絶対“当てにいく”んだぞ。俺のことは利用できるだけ利用してくれて構わない。利用されてこそ、親冥利に尽きるってもんだからさ」

 

 

ではまた!

 

きゅうり(矢野友理)